近況

近況①

暫く休んでいました。

休んでいる間に摂取したもの

  • フェミニスト&クィアのグループで6時間オンラインゲーム

「コードネーム」と「Among us」をやった。とても楽しかった。

  • 通話(何件か。話を聞いてもらったり、山中智恵子の話をしたり)

  • 映画「プロメア」鑑賞、コラボ商品を飲んだり食べたり

「プロメア」は本当に好きな映画で、また人と観ることができてよかった。

  • ナポリの男たちさん、ジャック・オ・蘭たんさん、オモコロチャンネルさん、壱百満天原サロメさんの配信、その他Vtuberさんの切り抜き

  • ポンペイ展

小野賢章さんと小野友樹さんの音声ガイドを含め、とてもよかった。小野友樹さんは声が良すぎると思う。モザイク画のキットを買ってしまった。

  • 「ファイアーエムブレム無双 風花雪月」体験版をプレイ

発売はまだ先だが、体験版が既に出ている。2019年に「FE風花雪月」に出会ってから、僕の人生は変わってしまった。一番好きなのは蒼月のルートだが、決定打を与えられたのは紅花にフェリクス=ユーゴ=フラルダリウスを引き抜いたときの散策会話だ。五年後の蒼月でディミトリの背中を大聖堂の中でまず見守っていた男が、別の未来ではほとんど訓練場にいなくてはならず、死者の言葉を語るなと怒っていた人間が、あいつならこう言う、こうすることであいつは報われるかも、と死者に拘泥するその様が、僕をずたずたにした。こうした言動の不一致は、「矛盾」ではあり得ない。テキストのいいゲームは、人間が見せるアンビバレントな部分に違和感がない。そして「アンビバレントだ」と気づくための、生きられなかった道を同じ軸で生き直す選択ができること、それがゲームにある強みだ。蒼月以外のフェリクス――王なき〈王の盾〉――はただの盾どころか、騎士ですらない。王なき土地に騎士として留まれない。ほとんどのペアエンドでも彼は目的を失っていた。

その男が、この度の「無双」ではディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッドを「陛下」と呼んでいるではないか。「俺たちの国王陛下」という発言は原作でも聞くことができたが、王国のメンバーが公務を果たしている、それを見られるのがどれだけ嬉しかったか。正直「無双」シリーズは初めてプレイするし、その操作方法はまだおぼつかない。シナリオも別に期待していなかった。ただ、「風花雪月」が素晴らしいゲームであること、そこに需要があると分かってもらいたく買ったという感覚だだった。けれど、既に満足している。既にだ。

発売してからは連絡が取りづらいと思うけれど、ご承知おきください、と16日に書いたが、空白恐怖症なのでゲームをやっていても仕事や遊びに支障がないと思った。むしろ予定があったほうがゲームも楽しめるだろうし、何かあればご連絡ください。

  • 鍼灸院へ行く

自分の体のことがなんとなくわかった。

  • 映画「犬王」

湯浅監督で脚本が野木亜紀子さん、キャラ原案が松本大洋先生という時点で期待していたのだけれど、よかった。度肝を抜かれるシーンが幾つもあって、置いてけぼりにされていると感じたけれど、圧倒されている、の間違いだったかもしれない。

  • 「ブライアン・イーノ」展

『The Ship』は嵐のなかにいるみたいで、最初は入口付近にいる人しか見えなかったが、そろそろと進んで椅子に座ってしばらくすると暗順応ができて、どんどん装置や周りの人が見えてきた。けれど落ち着かなくて、たぶん音声が一周する前に出てしまった。『Light Boxes』や『77 Million Paintings』のほうが落ち着いてみることができたし、世界初公開作品である『Face to Face』が一番面白かった。実在する21人の顔写真がピクセル単位で変化していく。ゆっくり、どんどん別の人になる。その過程で三万人以上の存在しない、或いは存在と存在の中間を映し出す。眼鏡をかけた中年男性が穏やかな顔をした若い女性になったり、楽しげだった少女が髭面の気難しそうな色黒の男性へと変わっていく様を見ていた。

購入した本、読んだ本

  • 『齋藤史全歌集』

歌集は何冊か、自選集もあるけれどやはり全歌集があると安心する。

  • 雲田はるこ『昭和元禄落語心中』1~10巻

前からおすすめされていたものをやっと読んだ。本当に素晴らしかった。落語、興味あります!

  • 江野朱美『アフターゴッド』1, 2巻

別名義の作品で気になって読み始めた。異形を描くのも、依存とか人が人の為に何をするのか、みたいな見えない部分を描くのもうますぎる。

神の与える死に苦しみはないと、テレビもネットもクラスメートも言った。 神は美しくて見ただけで幸せになると、みんなが言って、親友しをんは信じた。だから親友しをんは死んだ。神が死を魅力的にしたから親友しをんは死んだんだ。私は神を許さない。

  • 『山中智恵子全歌集』上・下巻

山中智恵子『紡錘』より

霧の塔地に深くしてわが夜に鋏入るるとひとのことばの

いづくより生れ降る雪運河ゆきわれらに薄きたましひの鞘

殺戮に堪へむとならばニネヴェーに征け地球の肺腑かくも青くて

黙ふかく夕目ゆふめにみえて空蟬の薄き地獄にわが帰るべし

身をきて問ふことやめよ沫雪の海盤車ひとでほろぶる石垣の絶ゆ

囀りはあかるき挫折 思ひより遠くひろがる鳥の浮彫レリーフ

山中智恵子『空間格子』より

凍りたるうみわたりゆく静謐はばらばらにされたアレクサンドラン

花びらを支へあふつぼみ薔薇の寓話せめて睫を下して休め

よこいとをぬきとれば神の序列みえ異教徒のやうに明るい裁縫

さがしあてし言葉螺旋に閉ぢこめてフリュートは冬の靄にはてなし

かけがへなき変身して森に樹をみがけ 風よりも風のやうに否定の像あり

なだらひて銀河は冥く蝎座に陥ちゆくあたり風ほのほだつ

山中智恵子『みずかありなむ』より

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ

さくらばな陽に泡立つを目守まもりゐるこの冥き遊星に人と生れて

その問ひを負へよ夕日はくだりゆき幻日のごと青旗なびく

ひとつの手罪を祝ふと水そそぐはるかにぞ灯すレモンの深夜

怒りあれ野末にあかき雪積むとわが眼支へて塔は帆柱

たましひを測るものぞ月明の夜空たわめて雁のゆくこゑ

山中智恵子『虚空日月』より

ふかく青き卵を落しつつ鳥も幻化げんけのかなしみを抱く

てのひらのうすき水脈みをより夏果つる日向ひなたの村の草のひとかた

くちびるに水のことばはあふれつつ吟遊なべて喝食かつしきの秋

強ひられてかがやく星よ荒芒の秋の極みに舟流すべく

刺しとほす夢と思へば風切りに夕日したたり翔りゆきしか

ただよひてそのに死ねといひしかば虚空日月こくうじつげつふかきかも

山中智恵子『青章』より

きみはいづこのわが風伯ぞかすかなる花眼にきざしものぞくるめく

風に蒔くことばありけり百千の夏立ちあがる海図視えたり

痛む日は思い出でなむ傀儡師くぐつしに眉の図といふ相伝ありき

うれひ澄み鬱金桜はひらきゆく帰夢といひつつつばされたり

問ひ返せこころの夏のあかつきは明星海を渡るに堪へたり

わが夢の月日もしらずうつしよの踵をあはす橋在りにけり

山中智恵子全歌集はひとまずここまで。人と話したい。

  • 大前粟生『柴犬二匹でサイクロン』

顎を置くのにちょうどいい心だと思われた昼、動けない

ヨーグルト私の影で暗いならいつでも体交換しよう

ここで海見えるでしょうか見えますよていうやりとり海よりでかい

  • 初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』

都市部では 胸の中にもある都市部? すべてを買ってすべてを賭けた

つじつまを合わせて生きる 排水溝の記憶にかさねる鱗の記憶

記憶のためのさみしい水面が脳にあり、そこでようやくやさしくできた

裏からみると柄が違うの ひとしきり愛されたあと告げてみたいよ

きみとなら他人でいるのもわるくない 雨のベランダにできている川

爪切りを貸したら爪と爪が混ざる爪切りの中 永く 生きてね

初谷さんの歌って初谷さんにしか書けないんだって、改めて分かってよかったです。

  • 平岡直子『ladies and』

ご両家が切手サイズにまで縮む

改元のためにチップを握らせる

M to F F to M 門松

獅子舞のなかを通ってくればいい

人工湖そのやりかたで泣くとでも

九月尽でしたか警察呼びますよ

どうしても「平岡さんが書いた川柳だ」と思ってしまうな……。

  • 絹川柊佳『短歌になりたい』

カントリーマアムさくら味まずければ一本道で君に会いたい

傷つけるように電車が過ぎていく 心臓同士をくっつけたいの

プリン・ア・ラ・モードの模型ガラス越し 頭おかしくなるならちゃんと

わかりましたと頭をさげて金色の鹿に服従する十二月

「うん」と言われるたび分銅がのるみたい 普通の位置に戻って来れる

四つ葉かと思ったら三つ葉が重なってそう見えただけ プレゼントだよ

いい歌集だと思った。人と話したい。

  • 藤田湘子『20週俳句入門』

無季俳句については、

(前略)季語は何かと言うと、「俳句の約束」です。約束だから、時に破られることもある。

と書いているが、

(前略)定型をもって俳句の大前提とする立場を守るものであるから、自由律を俳句の仲間とは思わない。(中略)したがって、今後いっさい、この形式についてふれることがないことをおことわりしておきます。

とあって、厳しい。人の厳しい基準を読むのが好きなので、大変喜んだ。

  • 生駒大祐『水界園丁』

読んだことがあるのに家にない。人に貸して戻ってきていないのかもしれない。買い直した。デザインもおそろしいほど素晴らしい。

目逸らさず雪野を歩み来て呉れる

道ばたや鰆の旬をゆきとどき

疎密ある春の林の疎を歩く

あやとりに橋現るる夕立かな

明後日のこと貼られある冷蔵庫

製図台夜通し秋の線引かる

  • 「ねじまわし」3号

今まで読んだ中で一番面白い同人誌だった。もう完売したらしいです。

  • 山田佳乃『京極杞陽の百句』

暑き箇所涼しき箇所が汽船ふね極端

どの蟻の智もまさらずにおとらずに

うまさうなコップの水にフリージヤ

植木屋の松に惚れつつ手入かな

一期かな彼岸桜に一会かな

スリッパもあたたかさうに父の部屋

癖になる……。

  • 『左川ちか全集』

これは買っただけでまだ読めていない。

  • ル=グウィン『闇の左手』

友人が読んだというので、十年ぶりに再読した。全然覚えていないものだな、と思いながら読んでいたがどんどん蘇ってきて、数日でまた読破できた。読めたよ、と連絡したので近々感想会ができると思う。エストラーベンのことを話せるだろう。

近況②

プロイスラー『クラバート』は、身寄りのない少年クラバートが夢に出てくる言葉に従いたどり着いた水車場で働き始め、仲間たちと親方から魔法を習いながら暮らすも、最後には愛した少女と町で生きていくために試練を受ける話だが、その最後に、少女が烏に変身した状態の十二人の少年のうちからクラバートを見つけなければならないというシーンがある。合図も出してはいけない、声も出せない状況で少女はクラバートを見つけ出すが、どうして分かったのかと聞くクラバートに、あなたが私を心から心配しているのが分かったから、というようなことを言う。それを読んだとき、心が震えたのを覚えている(ちなみにこの作品は、「千と千尋の神隠し」の参考になったと言われるもののの一つだ)。

人が人を心配する――というような、人の心の動きを見つめるのが何より好きだ。好きだった。

けれど五月頃からどうにもそれを見すぎて、何かを見たら何か言わなくてはいけない気がして、パンクしてしまった。きっと人と関わる上で必ず起こり得る些末なことだったのに、いつのまにか肥大した受容体でそれらを全て(本当に「全て」だと思った)感知していたし、増幅させてもいた。

そのあたりから、もう自分に関わる検索をしなくなったし、SNSもろくに見ていない。上記にあるように本を読んで、いろいろな人たちと通話をしたり、お茶をしたりして過ごした。べただが、再び安井金毘羅にも行った。

他の人はどうか知らないけれど、私は私の大事な人に誠実に接することでしか私のことを生きられない。

比較的元気になった。やっていこうと思います。