「永遠のソール・ライター展」短歌

永遠のソール・ライター

かつてない夏を謳った手始めにいよいよ雨に閉じられた都市

おだやかに銃向けられる心地して36.7℃ろくどななぶと告げられている

去年出会ったばかりのひとが好きそうな写真だ特に伝えないけど

街灯は油膜のようにぼかされてモノクロ写真のなかの水兵

ポケットが鍵のおもさの分たわむ 蛍をついに見たことがない

コンタクトシートのなかで傘を持ちおそらく笑っているひとの貌

〈題がないから「無題」なのか、「無題」という題なのか〉
雪に雨に街が滲んでゆくことを待っていたかのような一連

ギャラリーの階段からはカフェが見えそれをあなたが撮っていたこと

ティーカップに顔が隠れた写真にはタイトルにいもうとの名があり

こいびとに眼鏡をかけるようにして壁に設えられた風景

ひたひたと見つめてしまう風景に溶け込むセルフ・ポートレートを


去年の平日に「ソール・ライター展」に行った。僕以外誰もいない会場で、写真をゆっくり見た。写真も会場もどちらもひどく静かだった。知識があればよく分かることもあれば、ないから見えることもあると思わない? 写真について何も詳しくないけれど、美術展でいつもそうするようにポストカードを買った。

二次創作というか、あまりに「感想」すぎて、いつか出す第二歌集にも入れないだろうからここに残しておく。