『一茶俳句集』三十句選

『蕪村俳句集』を読んで蕪村おはなし会の準備をしていたが、息抜きの為に別の句集も読んでいた。そのうちの一冊、『一茶俳句集』から三十句選をした。

三十句選

()内は句番号

寛政期

木々おのおの名乗り出たる木の芽哉 (2)

山寺や雪の底なる鐘の声 (4)

天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ (80)

享和期

夏山や一足づゝに海見ゆる (172)

夕桜家ある人はとくかへる (195)

大根引一本づゝに雲を見る (222)

はいかいの地獄はそこか閑古鳥 (257)

文化前期

陽炎や笠の手垢も春のさま (349)

炭くだく手の淋しさよかぼそさよ (405)

あけて春を待らん犬はりこ (411)

穀つぶし桜の下にくらしけり (425)

雪車そり立てすこし春めく垣ね哉 (468)

花ちりてゲツクリ長くなる日哉 (531)

白魚のどつと生るゝおぼろ哉 (538)

蝶とぶや此世に望みないやうに (563)

文化後記

雪どけをはやして行や外郎売 (587)

涼風すずかぜや力一ぱいきりぎりす (630)

亡母や海見る度に見る度に (808)

是がまあつひの栖か雪五尺 (870)

エイヤツといきた所が秋の暮 (969)

あの月をとつてくれろと泣子哉 (975)

雪とけて村一ぱいの子ども哉 (1048)

大根引大根で道を教へけり (1179)

痩蛙まけるな一茶是に有 (1291)

最後は有名な句だが、「軍談・講釈などの口調に擬したもの」だと初めて知った。

文政前期

三ヶ月はそるぞさむさは冴かへる (1422)

雀の子そこのけそこのけ御馬が通る (1535)

湯にいりて我身となるや年の暮 (1653)

芭蕉忌や三食三色みたりみいろ天窓付あまたつき (1756)

「雀の子~」は、「狂言の対馬祭「馬場退け馬場退けお馬が参る」を踏まえる」らしい。自分が一茶のオリジナルだと思っているものはそうではないものが多いと気づいた。万葉集や他の古典からの引用がかなり多い。忌日がいつから俳句に使われているのか少し興味があったが、一茶のときに既に使われているのはこれで確認できた。芭蕉忌の句は一茶に他にもあるが、初出をここに記す。

文政後期

手に足におきどころなき暑哉 (1794)

あこが手にかいて貰ふや星の歌 (1844)

コメント

三十句選んだが、「俳句としてよいと思うもの」と「一茶らしくて好きなもの」、「例として有用なので書き記したもの」などが混在している。

たとえば同じ享和期にしても、

夏山や一足づゝに海見ゆる (172)

はいかいの地獄はそこか閑古鳥 (257)

この二句でそれぞれよいと思う観点は違う。今までなんとなく思っていた「一茶らしさ」というか、「一茶の句」に期待するところは後者だが、「俳句」として好きなのは前者、という感じで。

一茶には

是がまあつひの栖か雪五尺 (870)

というような、「是がまあ」で五音を消費する気概が見えると嬉しいという気持ちになってしまう。読んでいるときの温度は夢道の句を読んでいるときと同じ感じだった。

あまりにも有名な句もあるが、「あまりにも有名だから」と避けるのも読書の記録として正しくないような気がして、よいものだと刷り込まれた結果選んだのなら、それごと残しておこうと思っている。明日は蕪村おはなし会。一茶にも蕪村に影響を受けて作った句がある。明日が楽しみだ。

蕪村:山暮て野は黄昏の薄哉(487)
一茶:山は虹いまだに湖水うみは野分哉(134)

蕪村:遅き日のつもりて遠きむかしかな(116)
一茶:夕ざくらけふも昔になりにけり(595)