短歌連作「果報は奪う」

本を捲るほどにかさつく指先できみの悪夢を信じていない

街は屋根から燻んでいってアパートの手摺りに傘は傘と寄り合う

逆風のなかでそんなにはなびらにまみれてきたの 目を閉じないで

踊るように季節が過ぎるパンドラの匣にひとつも残さず出よう

きみからの手紙を遺書のように読む 飛行機がゆく けど どこまで

忘れないようにしたくて(でも何を?)臓器のように花を毟った

いつになく素直にきみが笑うからそっと引き取る空のグラスも

冬銀河 胸からバッジ外しつつ信じていると言いたくて言う

クラバットの襞が西陽に刻まれて、果報は奪うことにしている

落ちてからさらに重たくなる椿 ぼくを潰せるのはきみだけで

歳月がひとに眼鏡を掛けさせてその外し方をぼくは覚える

何ヶ月も短歌ができていなくて、今日やっとできた、と思ったら11首になってすごくしんどかったです。でもまた短歌に戻って来られました。これからまたできたりできなかったり、するのかな。