言葉を尽くせ 「髑髏城の七人」season鳥について

落丁ラジオで「ゴールデンカムイ」について語らせていただいたが、今聴くとちょっと言葉を間違えたなと思うところもあり(杉元が切腹の前に切ってみせた部位は手が先だった、尾形に対する感情はやはり広義の「夢」ではないか、等)、一発撮りの難しさを知った。かといって書き言葉ならうまくいくのか分からないが、好きなものに関して言葉を尽くすことをもっとやってみたいと思った。オタクはすぐに語彙を喪失する。それはそれで見ていて楽しいが……。とりあえず、「髑髏城の七人」season鳥を見たときの文章が残っていたので、それを整えてここに記しておくことにする。

「プロメア」で中島かずきさん(の脚本)に出会ったオタクが「髑髏城の七人(鳥)」を観た記録

  • ネタバレあり
  • セリフが間違っていたらすみません

TLのオタクの阿鼻叫喚を聞いて5月29日にプロメアを観た。すごかった。もう何がなんだかわからなくなって、途中で立ち上がって「わーーー!!!」と叫ぶのをなけなしの理性で押さえ込んでいた。ときめきが閾値を超えるとえずいてしまう体質なのだが、もうリオの某セリフを聞いた時は胃液が喉元ギリギリまでせり上がってくるのを感じた。吐いたかもしれない。わからない。記憶が飛んでいるので。5回観ているうちに、なにやらプロメア関係でフォローさせていただいた方々が別の作品をオススメしているではないか。読むと、「髑髏城の七人」。脚本はプロメアと同じ中島かずきさんである。プロメアの後、天元突破グレンラガン(劇場版)をGYAOで履修した。ありがとうGYAO。劇場版はどうやらアニメ版を圧縮したやつで、たぶん理解が浅いけれどスープの上澄みは飲めたなという気持ちになった。それも脚本がいいからだ。ストーリーを鮮やかに写し取るセリフがあれば名前もわからないキャラが何に苦悩しているのかわかる。この作品も中島かずきさんが脚本に携わっている。決まりだ。絶対に僕は中島かずきさんの脚本と相性がいい。中島さんが書くセリフに合うように脳波が出ているに違いない。そう確信し、検索した。映画館で観られるらしいのでチケットを予約した。2000円。安すぎる。元の値段も何年前の作品かもわからなかったがめちゃくちゃ安いことはよく分かった。オススメする文章の中に大体「地獄」という単語が入っているのが恐ろしかったが、オタクで地獄を体験していない者はいない。なんとかなるだろうと映画館に向かった。

結論から言うと、めちゃくちゃいい地獄だった。あらすじをざっくり言うと、織田信長が本能寺の変で亡くなってから8年後の関東が舞台の群像活劇で、信長公に仕えていた男が3人出てくる。そのうちの一人(天魔王)が殿の名を騙って暴虐の限りを尽くしていたので、残りの2人(捨之介と無界屋蘭兵衛)がシメにいこうとする話だ(観ていくと分かるのだがこの二人でシメることはできなかった……)。

この「髑髏城の七人」、調べれば1990年から演者を変え、その都度アレンジを加えて再演を重ねているもので、僕が観たのは<season鳥>だ。天魔王のメイクがしっかりしすぎて、「いや元の顔が分からん……絶対に知っている俳優さんだと思うのだが……英語のクセが強いな……」と困惑し、休憩時間に調べたら森山未來さんだったときの衝撃がすごかった(キャストくらい確認しろよという話なのだが、僕はツイッターのオタクの皆さんを信じているのでろくに情報を入れず秒でチケットを取るわけです)。ウォーターボーイズで森山未來さんに撃ち抜かれて写真集を買った記憶が蘇ってきた。この懐かしさ……例えるなら431年のエフェソス公会議で異端とされたネストリウス派が、唐の歴史を学んでいるときに景教として出てきたときのあの懐かしさだ。

  • 血も涙もない信長公の強火担の天魔王が森山未來さん
  • オタクの全ての業を背負った無界屋蘭兵衛(昔の名を森蘭丸。あの日本史に触れたオタクの八割が己の妄想をこすりつけてしまうという森蘭丸である)が早乙女太一さん
  • 最初は白痴のふりをしながらも、頭は切れるし強い、昔の過ちを悔いながら今を変えたいと願う光属性の捨之介が阿部サダヲさん

この御三方、どう考えてもおにぎりの具なら今からでも定番になれる御三方に加え、とてつもないキャストで埋められている。詳しくは検索してほしい。

プロメアとグレンラガンで「名乗り」中毒になってしまったので、捨之介の最初の「浮世の義理も、昔の縁(えにし)も、三途の川に捨之介! よっく覚えときなぁ!」で胃の内容物ぜんぶ出た(概念)。 この名乗りはゲーテ『ファウスト』で悪魔メフィストフェレスがファウストに何者かと訊かれたときの、

Ein Teil von jener Kraft, Die stets das Böse will und stets das Gute schafft.

(常に悪を欲し、常に善をなす、あの力の一部です)

の返答と同じくらい格好良い……。その後の「もっとも、覚えたときには既に……死んでるが、な」も大好きな流れすぎて感動の八割が膝にきた。「小娘に見えて一族の長」、夏の夜に窓からやってくる一筋の涼しい風よりも好きだし、「弱気を助け強きを挫く傾奇者の一団」、「昔馴染みの天才刀鍛冶」の存在だけでこの地球を作り出したあらゆる偶然に感謝する。極楽太夫も無界屋の女性たちもみんな大好き! 強い女の合唱は最高。驚くほどに好きなものしかなかった。プロメアのリオが早乙女太一さんの殺陣を参考にして動かされている、というのをどこかで見たが、僕は「人間ができる殺陣」をかなり低く見積もっていたことがわかった。並の人間がその動作を追えるものではない。動体視力チェッカーとしての早乙女太一さんがそこにいた……。本当に速い、美しい、斬られても三十秒くらい気づかないと思う。鮮やかすぎて。阿部サダヲさんについては、コミカルな演技ばかりみてきたけれど、シリアスな演技、一呼吸おいたあとの声の良さ、動き、その全てが素晴らしく、途中からはガチ恋になっていた。

クソデカ感情のぶつかり合いと情緒のジェットコースターがミキサーにかけられて脳に直接流し込まれている気分だった。とにかく阿部サダヲさんの捨之介が黄斑に焼き付いて離れない。ちなみに最後の見所は帰宅の早い早乙女太一さんである。

DVDだと気が散りがちなので、大きなスクリーンの音響も整った場所で観られるのは本当にありがたい。まだ体験したことのない人たちにもぜひお勧めしたい。「髑髏城の七人を観ましたか?」は、空港で「何日間滞在しますか?」「出国の目的はなんですか?」の次くらいに訊かれる日が来るのではと思っているので。暴君だったら高等学校の必須科目にしていた。己が平民であることを恨むばかりだ。とにかく「髑髏城の七人」を観ることができてよかった。オススメしてくれたツイッターランドの皆様、本当にありがとうございました!最初に観た鳥髑髏城を親だと思ったらどうしよう(雛鳥?)(season鳥だけに……)でも風観に行きます!

……ちなみにこのあと「風」、「上弦の月」、「下弦の月」を観て、家にテレビもないのに5万円のDVDを買った。まだ届いていない。届いた暁には新しい阿鼻叫喚が生まれるだろう。それを楽しみにしている。