暮田真名『ゆきどけ産声翻訳機』
『ゆきどけ産声翻訳機』
『ゆきどけ産声翻訳機』という川柳アンソロジーが、2026年1月に左右社から発売されました。表紙にはBest Selection100とも書かれています。著者は暮田真名さん。
暮田さんは川柳人(川柳を書いている人)で、第一句集『ふりょの星』、入門書『宇宙人のための川柳入門』、エッセイ集『死んでいるのに、おしゃべりしている!』という本も出しています。川柳というと、サラリーマン川柳、いわゆるサラ川が多くの人が思い浮かべる中で暮田真名さんは現代川柳について、主に話をしてこようとしてきました。(※そんな暮田さんが時事川柳・公募川柳・伝統川柳を含め「年表」というアイディアを考えていることについてはこちらを読んでみてください)
『ゆきどけ~』は、普段川柳を読まない人、川柳をどういうふうに読んでいいかわからない人に、わかりやすく一句ずつの評(コメント)がついている本です。重要なベスト20を最初にまとめていて、残り80個は「おもしろい」「こわい」「かっこいい」「せつない」の四つのカテゴリーに分類しています。本を開くと、見開きの右側に句と作者名と引用元。左に評が書いてあるという感じ。これが200字ぐらいで書かれているので、すごく読みやすいなと思います。
暮田さんとの関係
私は暮田さんと、短詩集団「砕氷船」というグループで一緒に活動しています。俳人の斉藤志歩さん、川柳人の暮田真名さん、そして歌人の榊原紘(私)で、短歌・俳句・川柳の3ジャンルが揃っているのが、短詩集団「砕氷船」です。そこでいろいろ話をしたり、本を作ったりして、もう活動も6年目に入っています。暮田さんが川柳を知ってもらうために、どういったことをしていけばいいのか、と悩んできたのを知っているし、悩む以上に、積極的に活動しているのを見てきました。
句集『ふりょの星』、入門書『宇宙人のためのせんりゅう入門』、エッセイ集『死んでいるのに、おしゃべりしている!』も、もちろん素晴らしい仕事ですが、アンソロジーも、暮田さんにとっても川柳界にとっても、大きい仕事だと思いました。
アンソロジーって
アンソロジーというのは、もう100回言われてきていることだし、これからも100回言われることではあるんですが、「選ぶ」という行為が形になったものです。だからどうしても、「選ばれなかった」ということがつきまとう。
けれど、一つのアンソロジーが他の作品や他のアンソロジーが出るきっかけになったり、話が生まれたりする。ここに載っている句だろうと、載っていない句だろうと、話さずにはいられなくなる力こそが、アンソロジーの大きな意義です。そして、この句が入っていないだの、この句の解釈が違うだの、そういったことを言われるのが、アンソロジーの著者の避けられないことであり、出した後の嬉しい反響よりも目につくところだと思います。大変すぎるよ。それを引き受ける暮田さんに、まず大きな勇気を感じました。
本の中身
『ゆきどけ~』から句や評を紹介したいと思います。
まず最初の句は、小池正博さんの「はじめにピザのサイズがあった」。次に石部明の「オルガンとすすきになって殴りあう」。三句目に石田柊馬の「妖精は酢豚に似ている絶対似ている」。以降もいろいろ面白い句が読めますが、最初から通して読むことはもちろん、気になったところを開いて読んでみることも構成上可能だし、むしろ気軽に川柳にふれてみるという点では、「今日はここを読んでみよう」とぱっと開くのがいいんじゃないかなと思います。
句も面白いですが、暮田さんの評がやっぱり面白い。それがこの本の強みの最たるものです。大西泰世の「恋人になってくださいますか吽」という句で、返事の「うん」の字が阿吽の「吽」になっていることについて、サンスクリット語のことにもふれつつ、私がなるほど面白いなと思ったのは、
「告白の台詞が「くださいますか」という「a」音=「阿」で終えられているから、「吽」を導き出すことができたのかもしれない。「付き合ってください」だったら、だめだったかも。
という最後の箇所。
白石維想楼の「人間を取ればおしゃれな地球なり」という句でも、評の部分で好きだったのは最後の箇所です。環境問題について議論してると、人間がいなくなれば全部解決するって言い出す人が現れるけど、それは事態に真剣に取り組む姿勢とは言えないよねという話が最初にあって、(関係ない話だけど、私は『羅小黒戦記』で風息にめちゃくちゃ寄り添ってしまった過去がある)この句は、人間の存在を「倫理的に悪い」というよりは「美的に悪い」話をしているのが、驚くべきところなわけですが、そんな句の評の最後は、
「取れば」という動詞もすごい。カビ扱いである。
句によって評をやわらかくしたり硬くしたりするのをうまく分けていて、百句分読んでも飽きない。
手を変え品を変えアンソロジーが出ている短歌の現状と比べると、現代川柳はアンソロジーがまだ数が少ない。『ゆきどけ~』は、歴史的というか、もう亡くなっている方の句が大半の、すごくスタンダードな作りをしていると思います。この本は左右社の『桜前線開架宣言』(短歌アンソロジー)や『天の川銀河発電所』(俳句アンソロジー)をはじめとするシリーズから出ていて、読みやすさや新しい感じっていうものを打ち出すシリーズの流れではあるのですが、ここから川柳を学んだ人が川柳の要点をおさえられるようにという、仕組みがとても親切な本だなと思いました。
最後に
私が好きだと思った句は、
- 君が代にうどんは伸びてしまいまする/渡辺隆生
- お経ほど長くは生きていられない/滋野さち
- 言い負けて両面コピーされている/熊谷冬鼓
- ごめんなごめんなごめんな四捨五入/高瀨霜石
- 穴は掘れた死体を一つ創らねば/定金冬二
かな。明日には変わるかも。それが、アンソロジーの面白いところですよね。
試し読みもあります⇒試し読み